【業界視点】アリババなどが実践するパーソナライズドマーケティング、 チャットボットを活用したECマーケティングの今
圧倒的な勢いで成長する中国のモバイルインターネット産業で「ビジネスインテリジェンス(BI)」が注目を集めています。ターゲティングアプローチの「千人千面(チェンレンチェンミエン)」やチャットボット「店小蜜(ディエンシャオミ)」の活躍例を解説します。
高鴻健(Kid Gao)
DEC BU Copywriter, transcosmos China
<リード>
急速に台頭する中国のモバイルインターネット産業は、圧倒的な勢いで成長しています。それに伴い「ビジネスインテリジェンス(BI)」が注目を集めています。今回はBIが中国におけるECサイト運営でどのように消費者へのアプローチに役立てられているか、どのようなシーンで顧客満足度の改善に寄与しているか解説します。
<本文>
|中国EC市場の課題を解決する「BIツール」
BIは、経営戦略などビジネス上の意思決定を包括的にサポートする考え方と手法です。たとえば、企業に蓄積された大量のデータを収集して分析・加工を行い、その結果を可視化するダッシュボードツール「BIツール」はその1つの手法です。
中国EC市場を牽引するアリババグループは2019年に創業20年目を迎えました。中国経済やインターネットの成長スピードが世界を震撼させています。
ネットユーザの95%以上を占めるモバイルネットユーザは、11月11日の「独身の日セール(通称ダブル11)」を大いに盛り上げ、インターネット上のGMV(Gross Merchandise Volume:総流通額)も年々伸びています。
2019年のダブル11では、アリババグループの「Tmall(天猫)」はGMV が2,684億元(1元15.58円で換算すると約4兆1807億円)に達し、前年の2,135億元(1元=15.58円換算で約3兆3263億円)と比べると25.7%の増加となりました。一方で、増加率は2018年の前の年比が26.9%だったことと比べると、1.2ポイント低下しています。
2013年から2019年のTMALLにおける「ダブル11」のGMVと増加率(出典:中国産業情報網)
データからもわかるように成長率は少しずつ鈍化傾向にあり、中国EC市場は成長期を経て安定的な成熟期を迎えつつあります。また、近年、新規顧客獲得コストは増加しており、EC店舗を出店する企業は頭を悩ませています。
タオバオ、京東(JD)をはじめとしたECプラットフォームはこうした課題に対し、「千人千面(チェンレンチェンミエン)」と言われるBIの仕組みを導入しています。
BIの仕組み「千人千面(チェンレンチェンミエン)」とは
「千人千面」はECプラットフォーム内における商品表示のアルゴリズムのことを指し、ターゲティングアプローチ手法の1つです。来訪ユーザーの性別・年代など登録情報、検索履歴、閲覧履歴、購買履歴によって各ユーザーに最適化された画面と商品を表示。日本ではDLPO(Dynamic Landing Page Optimization)と呼ばれる自動的に訪問ページを最適化する仕組みを、中国ではECプラットフォーマが億人クラスのユーザを対象に、大規模運用しています。
「千人千面」によってパーソナライズ化されたタオバオのアプリトップページ画面。
お勧め商品がユーザーによって異なる
「千人千面」によってパーソナライズ化された
Tmallのアプリトップページ画面。
画面中央の靴はゴルフシューズで、ユーザーは数日前に複数のブランドでゴルフシューズを検索しました。しかし、検索した商品は未購入のため強くレコメンドされています。同様にバスケットボールとお茶が表示されているのは、このユーザーがそれぞれ同カテゴリーの商品を購入しているからです。そのため、「球技に興味がある」「お茶を好む」ユーザーとして自動的に商品をレコメンドしています。
ECプラットフォームは閲覧・訪問・トランザクションといった膨大なデータベースを保有しており、出店企業にBIツールを開放しています。アリババでは「データバンク」、京東(JD.com)では「京東商智」が代表的なBIツールです。
出店企業はこれらのBIツールを導入し、活用しながら、ユーザーを把握してマーケティング施策を行います。このようにECプラットフォームでは顧客獲得コストを低減する工夫が「千人千面」などのBIという形で実践されています。
|タオバオのチャットボット「店小蜜(ディエンシャオミ)」
ダイレクトマーケティング業界においてカスタマーサービス(CS)機能は不可欠であり、企業と顧客の関係構築に重要な役割を果たしています。その影響範囲は対顧客一人ひとりに留まらず、販売手法やアフターセールス、市場開拓、口コミなどのブランド評価の形成にまで広く深く及んでいます。
これまでカスタマーサービス業者は、人財育成と顧客との関係維持にコストをかけてきました。一方、品質管理や顧客対応の実態を正しく把握することが長年の課題でした。加えて近年の人件費の上昇により、企業にとって業務効率化によるコスト削減はますます重要課題となっています。
こうした背景から「BI」の1つである「チャットボット」の仕組みが一助となっています。
タオバオのチャットボット「店小蜜(ディエンシャオミ)」を例にして説明します。アリババグループが打ち出したEC店舗用のチャットボット「店小蜜」は、あらかじめ設計されたプログラム(応答ロジック)に従い、有人オペレーターに代わり24時間・7日間、いつでも顧客対応が可能です。
特に「ダブル11」などの大型商戦期に、「店小蜜」はユーザからの問い合せを適切に応答できます。また、「店小蜜+有人オペレーター」の連携は、オペレーション効率を高め、人員コストの最適化、精度の高い応答による顧客満足度向上を同時に実現します。
「店小蜜」の機能一覧
(出典:店小蜜プラットフォーム公式サイト)
「店小蜜」はユーザーからの質問にさまざまな言語で対応し、最適な回答を自動的に返信します。しかし、「店小蜜」を単に導入するだけで効果が得られるとは限りません。オペレータ配置のノウハウや技術の活用方法によって、その効果は如実に違いが表れます。
トランスコスモスチャイナの事例から説明します。2018年3月、「Tmall」が「店小蜜」を導入した後、「Tmall」に出店している食品・日用品カテゴリーの店舗は、「店小蜜」と有人対応率はともに50%前後でした。しかし、トランスコスモスがカスタマーサポートを受託し、専門データアナリストをチームに組み込んでデータ最適化を行ったところ、わずか2週間で有人による対応率は28%に低減。目標としていた友人対応率45%をはるかに上回る率で「店小蜜」が対応できるような状況になりました。
食品・日用品カテゴリーにおける「Tmall」店舗の店小蜜から
有人オペレーターへの切り替え率表示図(トランスコスモスチャイナ編集部が作成)
|まとめ
「ビジネスインテリジェンス」は、企業の売上拡大、さまざまな運用コスト削減が見込めると同時に、顧客満足度向上にも役立つ実用的なソリューションです。
今回は特に「千人千面」、「店小蜜」というソリューションに注目しましたが、これはわずか一部です。また、ツールはそれ単体では効力を発揮することは難しく、データを活用できる人財育成とデータ管理テクノロジーのノウハウを蓄積することが非常に重要です。
トランスコスモスはこれからも当分野での実践を進め、顧客満足の最大化に挑戦していきます。