【業界視点】テクノロジー起点で台頭する中国ECの新たな新潮流「C2Mビジネスモデル」とは
C2M (Consumer to Manufacturer、消費者から製造者)は、直接注文を受けて商品を作る「完全受注生産型」のビジネスモデル。
中国の各大手ECプラットフォームは、分析情報を製造者にフィードバックし、ブランドの新製品設計・開発をサポートしています。
賀昕(Daniel He)
Acting Department Director, IT Department, transcosmos China
新型コロナウイルス感染拡大は消費市場に大きな変革をもたらし、C2M(Consumer
to
Manufacturer、消費者から製造者)ビジネスモデルがオンライン消費を牽引する「新しいエンジン」になりつつあります。ビッグデータ分析に基づいたC2Mビジネスモデルは、ECプラットフォーム、ブランド企業、メーカーに新しいビジネスチャンスと新たな方向性をもたらしているのです。
|C2 Mビジネスモデルとは
C2Mは製造者が消費者から直接注文を受けて商品を作る「完全受注生産型」のビジネスモデルです。製造者は消費者からパーソナライズされたオーダーを受け取った後、消費者のニーズに沿った製品を設計、生産、出荷を行います。
ここ数年、各大手ECプラットフォームは、人工知能やビッグデータ、クラウドコンピューティング技術などにより、消費者情報を収集して分析。その分析情報を製造者にフィードバックし、ブランドの新製品設計・開発をサポートしています。
C2Mビジネスモデルは、消費者が中心になるのです。
|C2Mビジネスモデルの現状
中国の現代社会における主要な消費者層は、1980年以降に生まれた「80後」、1990年以降に生まれた「90後」で、C2Mの発展を支える重要な役割を担っています。
若年層の消費者は、商品やサービス情報をインターネットから入手、個性的かつパーソナライズされたコストパフォーマンスの高い商品を求めています。C2Mビズネスモデルは、まさにこのような消費者ニーズに合致しているのです。
主要消費層の「80後」「90後」の人口推移の予測(出典:中国国家統計局、天風証券研究所)
「80後」「90後」の増加に伴い、オーダーメイド市場が拡大。この消費者ニーズに応えるために、販売手法はC2Mビジネスモデルへと発展しています。
消費者から便利にカスタムオーダーできるプラットフォーム「必要商城」
消費者の注文に基づいて行う受注生産型モデルは、商品在庫や倉庫保管コストの削減に効果的です。生産者と消費者の間に存在する中間業社を排除できるため、消費者にコストパフォーマンスの高い商品の提供が可能となり、利益の最大化を実現することができます。
パーソナライズされたカスタマイズ商品は若い消費者ニーズと合致していることから、EC企業、生産者、消費者の3者から高く評価されています。
C2Mサプライチェーンと通常のサプライチェーンの比較図(データ元: 財通証券研究所)
C2Mプラットフォーム大手「必要商城」は、中国初のC2Mオンラインプラットフォームと呼ばれており、受注生産型の代表的なECプラットフォームです。コンセプトに「ハイブランドの品質、工場の価格」を揚げ、7年間もの時間をかけてC2M運営システムを構築。メーカーとユーザーを直結させることに成功しました。
「必要商城」は、有名ブランドが使うOEM工場と協業しており、独立ブランドとして自社製品の製造に活用することが可能。利用する企業はプラットフォームに一定の費用を支払います。ユーザーは「必要商城」を通じて自身の好みに合わせたパーソナライズされた商品を注文できます。
「必要商城」のカスタマイズ商品詳細ページ。ユーザーが眼鏡を好きな色やオリジナルサインをカスタマイズすることが可能。
商品詳細ページでは、メーカーや生産周期が記載されています
①必要商城のターゲット層
ユーザー層は、高品質な商品を追求しながら、商品やサービスの価格にこだわるという特徴があります。低価格商品を求めているわけではなく、高品質を前提に安い価格で購入しようとしています。「必要商城」は、高品質を求めていながら高級ブランドにあまり興味がない消費者にとって、一番良い選択肢になっているのです。
②必要商城の特色ある運営モデル
高級品ブランドが使うOEMメーカーと協力し、商品の高い品質・技術の確保に注力しています。多くのユーザーを惹きつけるために、優良メーカーと事業提携。有名ブランドが使うOEMメーカーで製造・加工することで、生産プロセスの改善や生産技術の安全性確保の徹底につなげています。
たとえば、「必要商城」で販売している高品質なメガネは、フランスブランド「Essilor」の生産工場によって作られています。「必要商城」と高級品ブランドは今後、OEMメーカーの生産品質の保証のほか、OEMメーカー自身は取り扱うブランドを広げ、できるだけ生産規模を拡大しようとしています。
一方で、消費者の権利と利益を守るために、メーカー選定に厳しい条件を、「必要商城」は設けています。
1. 世界的に有名なブランドとの製造に携わった経験がある
2. 消費者に手頃な「工場価格」で商品を提供でき、必要商城の価格システムに対応する
3. 多様化する消費者ニーズに柔軟に対応でき、デザイン業界で有名な企業と業務提携の経験やオリジナルのデザイン力がある
4. パーソナライズされたオーダーに対応できた柔軟な生産チェーンがある
これらの条件に加えて、商品の取り扱いについて厳しい管理規則を設けています。製品について悪い評価の割合が1%以上、返品率が5%以上になると、該当商品は規則によってプラットフォームから削除されます。
「必要商城」は、メーカーの生産体制の変革、コスト削減と効率化を支援しながら、消費者の購買行動のデータをリアルタイムでメーカーに共有し、生産プロセスの最適化とデジタルトランスフォーメーションの実現を支援していくことが期待されています。
商品開発するECプラットフォームの取り組み
新製品発売の際、ブランドと消費者との距離を縮める重要なメディアとして、各ECプラットフォームの重要性が高まっています。なぜなら、ECプラットフォームは、業界動向と消費行動などの膨大なユーザーデータを保有しているからです。そのようなマーケティングデータを的確に分析でき、ユーザーニーズをつかんで適格なターゲットを選定できます。
こうしたマーケティングデータを保有すれば、多くのブランドと協業関係を築くことができます。ECプラットフォームと協業したブランドは、サプライチェーン連携とC2Mビジネスモデルを採用することにより、プラットフォーム上に存在するターゲットセグメントに、新商品を購入するよう誘導できるようになるのです。
中国EC大手のJD.comとIoT企業であるBOE社が共同開発したゲーミングモニターは、JDの消費者データ分析を踏まえたC2Mカスタイマイズ商品の代表格です。
JDとBOEが共同生産したゲーミングモニター(出典:PChome)
長年にわたって、液晶ディスプレイ市場は大きな課題を抱えていました。あるサイズの液晶ディスプレイが発売されると、市場では当該サイズの製品が大量生産され、すぐに供給過剰となりディスプレイメーカーは価格競争に巻き込まれていたのです。
需要の低迷、激しい価格競争で、各ブランドはサイズ、外観、解像度などの技術面からイノベーションによる生産コストの削減を試みてはいますが、ブランドの研究開発部門と消費者との心理的距離は遠く、潜在需要をつかみきれないためほとんど成果を上げていません。
ECプラットフォームは各ブランドが抱えるこうした課題を解決に導くためのデータを保有しており、C2Mビジネスへの活用が進んでいます。JDのビッグデータについてユーザーの検索行動やショッピング行動を深掘りしてみると、ユーザーは「eスポーツ」「曲面型デイスプレイ」「高解像度」などに注目していることがわかりました。
JDとBOE社はこうしたデータを共有、若いeスポーツユーザーの要望に合わせた仕様の製品を生産した結果、JDプラットフォームを使うユーザーから支持を得ました。そして、生産周期も大幅に短縮されました。
JDのC2M5ステップ
(出典:https://www.ebrun.com/20190516/334026.shtml)
|C2Mビジネスモデルの将来性
C2Mの展開には2つの技術要素が必要となります。1つ目は生産データ、製品データおよびサプライチェーンデータの相互接続です。2つ目は、マスカスタマイゼーションなどの柔軟な生産力です。
将来性について筆者は、C2Mには2つの方向性があると考えます。
1.「C2M+ライブコマース」は、消費者と生産者を直接つなげる
C2Mとライブコマースとの組み合わせは、効果が高いと考えます。
注目を集めているライブコマースは、MCが取り扱う商品の品質をきちんと調べた上で、視聴者に推薦して販売するビジネスモデル。ブランドの構築に効果がある一方で、MCは視聴者の声を商品開発に取り入れるといったこともできます。販売と同時に、視聴者ニーズの把握と顧客体験の改善に効果的なのです。
ライブコマースは、消費者の要求を的確に生産者へとフィードバックすると同時に、消費者と生産者を直接つなげ、データの相互接続も実現できるようになります。
出典:CCIDコンサルティング
2.サプライチェーンの全体最適化
JDとMars Petcare(マース ペットケア、米国のペットケア業界大手企業)は2020年8月、アレルギーや消化器系の問題を抱える猫に特化したC2M型キャットフード「NUTRO穀物フリーアダルト キャットフード」を共同で開発しました。JDのC2Mチームは、産業用インターネット(産業用に構築されたインターネット接続環境で、接続対象が多岐にわたり、セキュリティや接続スピードでも一般的なインターネットを上回る環境)によって構築したデータプラットフォームを通じ、消費者が「猫アレルギー」に気を使っているという情報を発見。Mars Petcareはその情報の提供を受け取った後、穀物が猫の食物アレルギーを引き起こしやすいことを分析により解明しました。
商品開発におけるデータ共有に加えて、オンライン・オフラインでのマーケティング施策で、市場への本格投入前に需要予測を実施。新たな生産ラインを設計・開発し、穀物不使用のキャットフードを市場へ本格投入しました。
JDは産業用インターネット、クラウドコンピューティング、AI、ビッグデータなどの技術を生かして、柔軟で自動的な生産ラインの実現、デジタルツイン技術※による多次元のデータ処理と分析ができる環境を用意。Mars Petcareに生産プロセスなどのインテリジェントな意思決定の提供をサポートしました。
※デジタルツイン(Digital Twins):リアルなフィジカル(物理)空間の情報をIoTなどの技術で収集し、「エッジコンピューティング」によって処理を行い、その結果をほぼリアルタイムでクラウド上のサーバに送信。その情報をもとに、「サイバー(仮想)空間にフィジカル空間の環境を再現する」という概念(出典:https://blog.global.fujitsu.com/jp/2020-02-25/01/)
そして、Mars Petcareのリソースを統合し、電子商取引、サービス・アウトソーシング、倉庫管理、物流・輸送、アフターサービスなどのC2M関連のサポートサービスを提供。Mars Petcareも自身のソフトウェア・ハードウェア、管理システムの改善などを行いました。
C2Mビジネスの目的は、需要と供給を直結し、従来のビジネスモデルの再構築を図ることにあります。消費者が何を好んでいるのかを把握し、生産者はニーズに合わせて商品を生産する――このC2MモデルがEC業界で消費トレンドを牽引すると期待されています。
本記事は日本のECメディアIMPRESSにて掲載されております
日本語原https://netshop.impress.co.jp/node/9730 文URL: