【業界視点】中国EC —「ライブコマース」「C2M」「私域を使った顧客管理」で 大きく変わる中国マーケットの今とこれから
変化の大きい中国市場に合わせたスピーディな対応、プラットフォームのビッグデータ活用、ライブコマース、そして私域を使ったSCRMといったトレンドをキャッチし、事業に活用していくことが望ましいと言えるでしょう
白木由美
グローバル事業統括 中国事業本部EC推進課課長、ECBU事業推進部Director,transcosmos China
新型コロナウィルスが猛威を振るい世界的に大きな影響を与えているなか、中国ではライブコマース、C2M、“私域”を使った顧客管理といったキーワードがトレンドになっています。中国EC市場の新たなトレンドについて解説します。
|ライブコマースの台頭
アリババグループの最高経営責任者ダニエル・チャンがカンファレンスで、小売業の本質は“人・モノ・場”であり、ライブストリーミングは本質的には“場”の変化であると話したのは2017年のこと。
「人・モノ・場」とはアリババが提唱した新小売りの概念。ライブコマースの台頭は消費者の需要の変化、すなわち人の集まる“場所”が変化したという、新小売の概念に紐づいた変化であることを伝えています。この変化が従来の小売りから新小売りへの変化の一部であると言われています。
ライブ配信の始まりは2005年まで遡ります。娯楽(ゲーム配信)をメインに徐々に浸透、2016年6月に張大奕(ジャン・ダーイー)という起業家としても有名なトップKOLが初めてライブコマースで視聴者数41万人を集め、2000万元(約3.3億円)を売り上げました。
2017年10月には“薇娅Viya”(ウェイヤー)が5時間のライブ配信で総売上7000万元(約11.5億円)を記録し、それを皮切りにライブコマースがEC業界発展の新勢力として台頭してきました。
中国のライブコマース市場規模は、2021年にオンライン小売の15.1%を占める2051億元(約3.4兆円)規模に拡大。将来的にはオンライン小売の約24%を占める市場へ成長する見込です。
(出典:2020年中国ネット広告場年度洞察報告――シンプル版)
現在ライブコマースのプラットフォーム大手3社はタオバオ(淘宝)、TikTok(抖音)、Kuaishou(快手)。
この3つのライブコマースプラットフォームはGMV(流通総額)を拡大。タオバオライブコマースのGMVは2021年に4048億元(約6.68兆円)を超え、TikTokの年間取引総額は5000億元(約8.25兆円)に成長し、ライブコマースの競争は激しくなっている状況です。
タオバオ(淘宝)、TikTok(抖音)、Kuaishou(快手)のGMV
(出典: iiMedia Research(為替レート:1元=16.5円))
海外企業は拡大する中国のライブコマースに注目しています。
フランスのスキンケアブランドであるラロッシュポゼは2020年10月、正式にTikTok(抖音)を通じた中国ECに参入。2021年の自社ライブによる売り上げは十数億円を超えるまでに成長しています。また、TikTok(抖音)のEC事業化粧品カテゴリーTOP3にランクインもしました。
ライブコマースのKOL活用だけでない通常時の店舗ライブ運営の重要性も見直されており、この動きはより加速していくものと思われます。
|C2M 消費者起点の商品開発の増加
2016年に開かれた云栖大会(Apsara Conference)でアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は、「本来のB2Cの製造モデルは徹底的にC2Bの転換に舵を切るようになる」と説明。その後、C2Mビジネスモデルに注目が集まってきています。
C2MとはCustomer-to-Manufactureの略で、生産者・製造者に消費者がオーダし商品を作るビジネスモデルを意味します。中国では各ECプラットフォームがC2Mに対する取り組みに参加し、そのインフラを活用する企業が増えています。
現在ECプラットフォームの推進するC2Mビジネスは、主に販売ビッグデータから直接商品に対する需要を汲み上げ、生産者側がそれにマッチした商品を生産販売するモデルを指します。
C2Mビジネスについて(出典:vzkoo.com)
C2M市場は2020年約407.3億元(6720億円)となり、2018年の約169.7億元(2800億円)から2年間で2.4倍に拡大しています。
C2Mの市場規模(出典:chaitopi.com)
多くのC2M商品を市場に出しているTmallは、今まで既存データに依存していた商品開発にビッグデータを使用することで、製品ヒットの確率が5割以上に増えると公表しています。
こういった動きを受け、各社はC2Mプラットフォームと戦略的提携を実施。資生堂は2019年3月にアリババグループと戦略業務提携を締結し、日本企業初の戦略連携オフィスを中国・杭州に新設しました。
フィリップス社は2020年にTmallイノベーションセンター(TMIC)とC2B開発事業に関して戦略提携会議を開き、消費者の需要に応えられる商品を開発することに関して提携の意向を発表しました。
ロレアルは2018年からTMICと商品開発に関する提携を開始し、2021年に初の男性用コンシーラーを開発。発売後3日間で3.5万本販売の実績を作りました。
|“私域”を使ったCRM
“私域”とはWeChatに代表されるブランド独自のトラフィックソースを持つプライベートドメインのことを意味します。
対義語で使われるのは“公域”=パブリックドメインで、アカウント登録をしなくても自由に見ることができるオープンなECサイト、SNSではWeiboやRED(小紅書)などのトラフィックソースのことを指します。
昨今、中国ではECモールへの出店ブランドやプラットフォームの増加により、新規顧客獲得コストが大幅に上昇しています。新規顧客獲得コストは、2019年10-12月期(4Q)で前年同期比2.5倍に上昇。広告投資対効果(ROAS)が悪化しているため、ROASの効率化を実現するために“私域”を使った顧客管理がブランド運営には必須とされています。
新規獲得コストの推移(出典:天風証券研究z補)
ソーシャルメディアが社会のインフラの1つとなっている中国においては、従来型のCRMではなく、ソーシャルCRM(SCRM)という、ソーシャルメディアを用いた顧客管理でエンゲージメント構築を促進する活動による独自顧客資産運営が発展しています。
ソーシャルメディアを用いた顧客管理の概念(transcosmosが作成)
従来のCRMでは、「顧客との双方向の対話」という課題がありました。SCRMを推進する理由として、“企業が「個人」としてこのプラットホームに参加し「顧客との水平な立場で対話を行う」ことで、顧客との持続的な関係を構築し、顧客のロイヤリティ化が促進できる”ことがあげられます。
中国の消費者は日常生活時間の40%以上をWeChatに費やすと言われています。Tmallは4.8%にとどまりますが、企業の誘導コスト比率はTmallが30~40%を占めるとも言われています。こういった背景からもWeChat公式アカウントを開設し、WeChatのプラットフォームでコンテンツマーケティングなど実施する企業が増加しています。
“私域”を使った顧客マネジメントは顧客獲得コストの削減、LTV(顧客生涯価値)や顧客満足度の向上、ブランドコミュニケーションの拡大につながるため、今後も注力する企業は増加すると考えられます。
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人の集まる“売る場”として利用していた大手プラットフォームを、“売る”だけでなくそこから得られるビッグデータを用いて商品を開発・発売するC2M。ライブコマースプラットフォームの本格展開といった“場”の拡大、私域を使ったSCRMでのマーケティングトレンドがこれからの中国EC市場を大きく変えていくことは間違いないでしょう。
また、中国では2021年9月から個人情報保護法が施行され、その施行に伴いCookie活用の制限なども影響を受けました。そのため、WeChatなどのSNSを使った企業公式アカウントの運用および自社EC化の加速が見込まれます。プラットフォームが持っているビッグデータを使った精緻なセグメンテーションマーケティング、消費者運営といったプラットフォームの活用方法も変わっていくでしょう。
今後の中国ECへの展開および拡大においては、変化の大きい中国市場に合わせたスピーディな対応、プラットフォームのビッグデータ活用、ライブコマース、そして私域を使ったSCRMといったトレンドをキャッチし、事業に活用していくことが望ましいと言えるでしょう。
本記事は日本のECメディアIMPRESSにて掲載されております
日本語原文URL:https://netshop.impress.co.jp/node/9986