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老舗ブランドが若返りを図る場合、若いブランドとの連携でその“ファンの力”を活用できます。若者世代を魅了する商品や販売方法で、若者世代との感情的なつながりを構築できれば、マーケティング効果は1 + 1= 2以上の効果になります
黄文波(Huang WenBo)
Operation Support Director, CCBU, transcosmos China
<リード>
長い歴史や重厚な文化、良好な社会的評価を得ている企業を認定する「中華老字号(China Time-honored Brand)」(中国政府が審査して認めた老舗企業)。1990年代や2000年代生まれの若い消費者の台頭で、老舗ブランドは若年世代をターゲットにする若返り戦略へと転換しています。中国の老舗企業にフォーカスし、若返り戦略を解読してきます。
| ブランドの若返りとは「リブランディング」
ブランドの若返りはそう簡単ではありません。若返り戦略とは、商品属性、利用シーン、販売チャネル、パッケージング、食感など、さまざまなポイントに若返りの要素を取り入れることで、ブランドを再活性化させる「リブランディング」なのです。
近年、中国の老舗ブランドは、「若者が何を追求しているか」「どのような流行を気に入るのか」「どんな消費習慣があるか」などに注目し、若い消費者との世代間ギャップを乗り越えてブランドの若返りにチャレンジしています。
600年以上の歴史を持つ国立故宮博物館(故宮)はここ数年、ブランドの若返り戦略を進め、「重厚な基盤」「可愛らしさ」というギャップを軸に、インフルエンサー、IP(知的財産)などを基盤にブランドイメージの再構築に成功しました。
故宮は2013年に初めて文化的製品のクリエイティブ公募を実施。それ以降、ブランドの若返りマーケティング戦略が始まりました。
「故宮タオバオ」のウエイボ-公式アカウントをもとにtranscosmosが画像を作成
故宮が運営する「微博(ウェイボー)」公式アカウント(ID:故宮タオバオ)では、歴史と現代を融合・共存させたコンテンツを日々投稿しています。たとえば、ピースサインをする宮女、清皇帝である雍正帝(ようせいてい)のかわいい画像です。厳粛なイメージを持つ歴史上の人物がユーモラスな姿で表現し、若者の間で大人気となりました。
故宮がブランディングを行う際、ブランドの歴史的な物語を掘り下げながら、高品質な商品を開発し続けています。歴史や所蔵する文化財を展示するために10個のアプリをリリース。ユーザーはアプリを通し、文化財の歴史や造形を身近に理解することができるほか、文化財展覧会などに関する情報を入手することもできます。
また、現存する文化財保存・修復のドキュメンタリー映画「我在故宮修文物」が放映されると、多くの若者に高く評価されました。
時代に合わせた取り組みで、故宮の文化は多くの若者に受け入れられていきました。故宮に代表される多くの老舗ブランドは、配信するコンテンツを若者にも受け入れてもらえるようにすると同時に、ブランド創設時の“根幹”を守り、初心を忘れずに若者にも継承していくという思いを大切にしています。
2. プロモーション:ブランドの若返りプロモーションにおける重要な力となる広告・PR・KOL
故宮は、ウエイボー、WeChat、H5などのオンラインのソーシャルマーケティングと、オフラインの街頭広告を通して、ブランドコミュニケーションを積極的に進めています。
たとえば、人口密度の高い北京地下鉄の国貿駅には、全長135メートルの「故宮雪景色絵巻」を展示。巻物にはインタラクティブなスクリーンが設置されており、このスクリーンがスライドレールを移動します。この仕組みによって、故宮の雪景色を地下鉄内で観賞できるため、故宮にいるかのように感じることができます。
こうした取り組みで、多くの若い消費者が故宮文化を受け入れるようになりました。
これには故宮博物館の前院長だった単霁翔(Shan Jixiang)氏が大きく関係しています。単霁翔氏は何度もニュースに取り上げられたため、、彼自身が大きなトラフィックの見込めるインフルエンサーとなりました。
院長就任から5か月を費やして故宮にある9000以上の部屋を視察。故宮が企画したバラエティー番組「上新了、故宮」では、何度もSNS上で話題になりました。彼は、文化財の保護を成功に導いたインフルエンサーとなり、マーケティングの観点から大きな効果をあげています。
独自の話題性をポジティブに伝えられる、ブランドを代表するようなKOLがいれば、老舗ブランドの若返りにはプラス要因となる事例です。
3. 商品:面白くて洗練されたクリエイティブグッズを開発
故宮のECサイトであるタオバオ店「故宮タオバオ」は2008年に開設し、クリエイティブグッズの販売を行っています。当初は、特色のある商品は少なく、売れ行きは芳しくありませんでした。
最近は可愛くて洗練されたデザインのクリエイティブグッズ開発に注力、グッズの売り上げは拡大を続けています。
独自の文化と日用品を組み合わせた独自の新商品が発売されるたびに、SNSではいつも「故宮がまた『お金を奪い』に来た」と話題になるのです。
故宮のクリエイティブグッズ(出典:「故宮タオバオ」のウエイボ-公式アカウント)
故宮のクリエイティブグッズ販売の成功は、時代の潮流に適した革新的で高品質な商品がブランドと消費者の距離を近づけることができることを証明しました。
故宮のクリエイティブグッズは品質の高いコンテンツを継続的に創出し続け、消費意欲の喚起につながっています。また、品質の高いクリエイティブグッズは直感的にブランドの文化やストーリーに触れさせることにつながり、故宮の理解形成という補完関係も形成しています。
4. eコマース:クラウドファンディングで若年顧客のニーズをつかみ過剰在庫を防止
故宮はECプラットフォームにおける販売を推進しています。
タオバオに「故宮タオバオ」を出店した後、Tmallに「故宮博物院文創旗艦店」、ウィチャットのミニプログラムに「故宮博物館文化創意館」を開設しました。
特に、バラエティー番組「上新了、故宮」に出現したクリエイティブグッズは、タオバオにおいてクラウドファンディングの形式で販売しています。消費者が頭金を支払うと、商品の生産が始まり、約束の納期までに納品される仕組みです。クラウドファンディングは、過剰在庫を防ぐこと、必要な分のみ生産すること、少年消費者のニーズを把握することにつながっています。
タオバオ上のクラウドファンディング(出典:タオバオ網)
5. 業界の垣根を越えた連携:1+1が2以上になる若いブランドとの連携&マーケティング効果
故宮の文化サービスセンターは中国ミネラルウォーター大手の農夫山泉(Nongfu Spring)と連携し、限定版ミネラルウォーター「農夫山泉故宮瓶」(9本入り)を販売しています。
コピーライティングとパッケージングは若者受けするデザインにし、ユニークな文字やイキイキとした絵を通じて、消費者が故宮を身近に感じることができるようにしています。
若いブランドは多くの若年層ファンを抱えています。老舗ブランドが若返りを図る場合には、若いブランドとの連携で、その“ファンの力”を活用。若者世代を魅了する商品や販売方法で、若者世代との感情的なつながりを構築できれば、マーケティング効果は1 + 1= 2以上の効果を得ることができます。
ブランドの若返りとは、重厚な文化と歴史を斬新な方法・運営によって、視覚的に継承・拡散することで、ブランドに新しい風を吹かすことにつながると考えられます。
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